ステップ2:AIで創る①(画像・デザイン編)
講座⑤:あなただけの画風を創る (Stable Diffusion入門)
第1章:Stable Diffusionの世界へようこそ
1-1. ImageFXとの決定的な違い - 「画材屋さん」で絵の具を自分で作る感覚
ImageFXでの魔法の体験、素晴らしかったですね!あなたはもう、言葉で絵を描く基本を完全にマスターしています。
さて、ここからは、さらに一歩進んだ、もっと自由で、もっと奥深い創造の世界へと足を踏み入れます。その世界の名前が「Stable Diffusion(ステーブル・ディフュージョン)」です。
ImageFXが、誰でもすぐに使える「魔法のスケッチブック」だとしたら、Stable Diffusionは、無数の絵の具や筆が並ぶ「巨大な画材屋さん」のようなものです。最初は少し戸惑うかもしれません。しかし、一度道具の使い方を覚えてしまえば、あなたは自分だけのオリジナルな絵の具を調合し、あなただけの画風を創り出すことができるようになるのです。
1-2. 複雑だから、まずはWebサービスから始めよう(SeaArt.aiを例に解説)
Stable Diffusionは、本来は自分のパソコンに専門的なソフトをインストールして使う、少し上級者向けのツールです。しかし、ご安心ください。今では、その複雑な部分をすべて肩代わりしてくれる、便利なWebサービスがたくさんあります。
この講座では、その中でも特に初心者の方に人気のある「SeaArt.ai(シーアート)」という無料のWebサービスを例に解説を進めていきます。画材屋さん(Stable Diffusion)の素晴らしい品揃えを、手軽なネット通販で試してみるような感覚ですね!
- Googleで「SeaArt」と検索するか、こちらのリンクからサイトにアクセスします。
- Googleアカウントなどで簡単に登録ができます。
- ログインすると、毎日一定数の「クレジット」が無料でもらえ、その範囲内で自由に絵を生成できます。
他にも「Leonardo.Ai」など、同様のサービスはたくさんありますので、気に入ったものを見つけるのも楽しみの一つですよ。
1-3. 基本的な画面構成と、ImageFXには無かった「不思議なボタン」たち
SeaArtにログインし、「AIイラスト」などの制作画面を開くと、ImageFXと似ているようで、少し違う画面が表示されるはずです。特に、以下の「不思議なボタン」たちに注目してください。これらが、あなたの表現を無限に広げる鍵となります。
- ネガティブプロンプト入力欄:通常のプロンプトの下にある、もう一つの入力欄です。
- モデル(チェックポイント)選択欄:様々な名前の付いた、画風のリストです。
- LoRA選択欄:「追加」ボタンを押すと現れる、謎のスパイスの棚です。
さあ、次の章から、これらのボタンが持つ魔法の力を、一つずつ解き明かしていきましょう!
第2章:呪文の深化 - 「ネガティブプロンプト」を使いこなす
2-1. プロンプトは「描いてほしいもの」のリスト
プロンプトが「描いてほしいもの」を伝える指示書であることは、もうご存知の通りですね。これは、料理で言えば「鶏肉を入れてください」「じゃがいももお願いします」という、ポジティブなリクエストです。
2-2. ネガティブプロンプトは「描いてほしくないもの」のリスト
そして、Stable Diffusionの最大の特徴の一つが、この「ネガティブプロンプト」です。これは、プロンプトとは逆に「これだけは、絶対に描かないでくださいね」とAIに伝えるための、いわば「NGリスト」です。
料理の例えで言うなら、「お砂糖は入れないでください(辛口カレーが食べたいので)」「きのこ類は苦手なので、入れないでください」と、シェフにそっと伝えるようなものです。この「引き算」の指示をすることで、あなたの料理は、より理想の味に近づいていくのです。
2-3.【実践】「綺麗な手を描いて(崩れた指は描かないで)」と指示する魔法
画像生成AIは、人間の「手」を描くのが、実はとても苦手です。指が6本になってしまったり、おかしな方向に曲がってしまったり… あなたも、そんな経験があるかもしれません。
そんな時こそ、ネガティブプロンプトの出番です!「綺麗な手」とプロンプトで指示するだけでなく、「崩れた手は描かないで」とネガティブプロンプトで釘を刺すことで、AIは格段に美しい手を描いてくれるようになります。
【サンプル】手を綺麗にするための「おまじない」
以下の呪文を、ネガティブプロンプトに入れてみてください。これは、世界中のクリエイターが使っている、品質を上げるための共通の「おまじない」のようなものです。
bad hands, extra fingers, mutated hands, fused fingers, malformed limbs, (worst quality, low quality:1.4)
(意味:下手な手、多い指、突然変異した手、融合した指、奇形な四肢、(最高に悪い品質、低い品質を1.4倍の強さで避けて))
このように、ネガティブプロンプトを使いこなすことは、作品のクオリティをプロのレベルに引き上げるための、非常に重要なテクニックなのです。
第3章:「画風」を根こそぎ変える魔法 - チェックポイント(モデル)
3-1. モデルとは、AIという画家の「人格」そのもの
お待たせしました。Stable Diffusionの心臓部、「モデル(またはチェックポイント)」の登場です。
前回の講座で、モデルはAIの「個性」や「得意な画風」だと学びましたね。もっと踏み込んで言うなら、モデルとは、AIという画家の「人格」そのものです。写真のようにリアルな絵ばかりを学習してきた画家(モデル)に「アニメのキャラクターを描いて」と頼んでも、どこか写実的な、ぎこちない絵になってしまいます。逆もまた然りです。
つまり、あなたが描きたい絵のイメージに合った「人格」を持つ画家(モデル)を選ぶことが、傑作を生み出すための、何よりも重要な第一歩なのです。
3-2.【実践】リアルな写真風モデルと、美しいアニメ風モデルを切り替えてみよう
SeaArtなどのサイトには、最初からたくさんのモデルが用意されています。同じプロンプトのまま、モデルだけを切り替えて、生成される絵がどう変わるか実験してみましょう!
a beautiful woman, in a fantasy forest, smiling
- まずは、モデル選択欄で「real_b」や「majicMIX realistic」のような、”リアル系”や”写真風”と書かれたモデルを選んで、上のプロンプトで生成してみてください。きっと、本物の人間のような女性が現れたはずです。
- 次に、モデルを「anything-v5」や「MeinaMix」のような、”アニメ風”や”イラスト風”と書かれたモデルに切り替えて、全く同じプロンプトで生成してみましょう。
どうでしょうか?同じ言葉の指示でも、AIの人格(モデル)が変わるだけで、全く違う世界の、全く違う魅力を持った作品が生まれたはずです。この感覚こそ、Stable Diffusionの最大の魅力です。
3-3. 【プロンプト集】可能性は無限大!プロのレシピたち
さあ、プロの厨房を覗いてみましょう。Stable
Diffusionのプロンプト(レシピ)は、基本的に以下の3点セットで構成されます。
「どの絵師(モデル)に」「何を描かせ(プロンプト)」「何を描かせないか(ネガティブプロンプト)」
ここでは、全く異なる画風のレシピを5つご紹介します。その奥深さと表現の幅を、ぜひ感じ取ってください。
※これらのプロンプトは、Stable Diffusionを使えるウェブサービス(SeaArt, Mage.spaceなど)や、ご自身のPC環境で試すことができます。
プロのレシピ①:リアルなポートレート写真風
リアルなポートレート写真風
【モデルの指定】 リアルなアジア人女性の生成が得意なモデル 【プロンプト】 傑作, 最高品質, 超高解像度, 1人の美しい日本人女性, 20代, 優しい笑顔, カメラ目線, 白いブラウス, 夏の日差しが差し込むカフェのテラス席, 背景のボケ感が美しい 【ネガティブプロンプト】 低品質, 簡単な絵, イラスト, アニメ, 3D, 変形した手, 指が多い, 複数の顔, 醜い, 老人
【レシピのポイント】
プロンプトで「傑作,
最高品質」といった品質を高める言葉を多用しつつ、ネガティブプロンプトで「イラスト」や「アニメ」といった写真以外の要素を徹底的に排除することで、AIに「とにかくリアルな写真を追求しろ」と強く命令しています。
プロのレシピ②:日本の伝統的な水墨画
水墨画風の武士
【モデルの指定】 アニメやイラスト全般が得意な、汎用性の高いモデル 【プロンプト】 傑作, 最高品質, 日本の水墨画, 霧深い竹林に静かに佇む一人の侍, 鋭い眼光, 力強い筆致, 余白の美 【ネガティブプロンプト】 写真, リアル, カラフル, 西洋風, 下手な絵, 崩れた構図, 人物が多すぎる
【レシピのポイント】
「水墨画」「力強い筆致」「余白の美」といった専門的なキーワードで画風を強く指定し、ネガティブプロンプトで「カラフル」や「西洋風」を禁止することで、AIの創作の方向性を日本古来の美意識へと誘導しています。
プロのレシピ③:温かい子供向け絵本
子供向け絵本風の動物たち
【モデルの指定】 可愛いキャラクターやデフォルメされたイラストが得意なモデル 【プロンプト】 最高品質, 可愛い子供向け絵本イラスト, 優しい熊と賢いキツネと陽気なウサギが、日当たりの良い森の中でお茶会をしている, 温かい色使い, ほのぼのとした雰囲気 【ネガティブプロンプト】 リアル, 写真, 怖い, 暗い, ホラー, 鋭い線, 影が強い
【レシピのポイント】
ネガティブプロンプトで「怖い」「ホラー」「鋭い線」などを禁止することで、AIが誤ってリアルで攻撃的な動物を描いてしまうのを防ぎ、絵本ならではの「優しさ」と「温かみ」のある世界観を守っています。
プロのレシピ④:SF・メカニックデザイン
巨大ロボットの格納庫
【モデルの指定】 メカやSF的なデザインの生成が得意なモデル 【プロンプト】 傑作, SF, 巨大な戦闘用ロボットが整備されている未来的な格納庫, 無数の配線とパイプ, スチームが立ち上る, メカニカルなディテール, 映画的なライティング 【ネガティブプロンプト】 キャラクター, 人物, 屋外, 自然, 明るすぎる, シンプル, おもちゃっぽい
【レシピのポイント】
「メカニカルなディテール」「映画的なライティング」といったプロンプトでクオリティを上げつつ、ネガティブプロンプトで「人物」や「自然」といった無関係な要素を排除し、AIの思考を「機械と格納庫」というテーマに完全に集中させています。
プロのレシピ⑤:幻想的なファンタジー風景
森のエルフの村
【モデルの指定】 幻想的な風景やアニメ背景の描画が得意なモデル 【プロンプト】 傑作, 最高品質, 壮大なファンタジーアート, 巨大な樹の上に築かれたエルフの村, 繊細な建築, 橋, 滝, 神秘的な光が差し込む森の奥深く, ジブリ風 【ネガティブプロンプト】 写真, リアル, 人物, 現代的, 建物が少ない, 暗い, 殺風景
【レシピのポイント】
「ジブリ風」という、多くの人が共通のイメージを持つキーワードを入れることで、AIに画風の大きな方向性を伝えています。ネガティブプロンプトで「現代的」を禁止し、ファンタジー世界にそぐわない要素が紛れ込むのを防いでいるのも重要です。
3-4. あなたの「好き」が見つかる、モデルの探し方と注意点
世界中のクリエイターが、自分の「好き」を詰め込んだオリジナルモデルを、「Civitai(シヴィットエーアイ)」のようなサイトで共有しています。こうしたサイトを眺めているだけでも、新しい創造のインスピレーションが湧いてきますよ。
ただし、ここで一つ、とても大切なお約束があります。それは、モデルごとの「利用規約」を必ず確認すること。これについては、最後の第5章で、改めて詳しく、丁寧に解説しますね。
第4章:「追加学習」の力 - LoRA(ローラ)という名の魔法のスパイス
4-1. LoRAとは、特定の「画風」「キャラクター」「服装」を追加する小さな魔法
モデルがAI画家の「人格」だとしたら、これから学ぶ「LoRA(ローラ)」は、その画家に特定の画風や服装を一時的に教えるための、「追加の参考書」や「魔法のスパイス」のようなものです。
モデル自体は変えずに、「このアニメ風モデルに、”水彩画風”のスパイスを少し加えてみよう」とか、「このキャラクターに、”ゴシックロリータのドレス”という参考書を渡して、着せ替えてみよう」といった、細やかなカスタマイズが可能になるのです。
4-2.【実践】基本モデルに「サイバーパンク風LoRA」を加えて、世界観を激変させる
LoRAの魔法を体験してみましょう。SeaArtなどでは、プロンプト入力欄の近くにある「LoRA」ボタンから、様々なLoRAを追加できます。
- まず、好きなアニメ風モデルを選び、「a girl in a city」のような簡単なプロンプトで絵を生成します。ごく普通の、街に立つ女の子の絵ができたはずです。
- 次に、「LoRAを追加」から、「Cyberpunk」や「Sci-fi」といったキーワードでLoRAを検索し、一つ選んで追加します。
-
AV LoRAを追加すると、プロンプトの中に
<lora:LoRAの名前:1>
のような、特別な呪文が自動で書き込まれます。
いかがですか?女の子はネオンが輝く機械的な装飾を身にまとい、背景の街も、高層ビルがそびえ立つ未来都市へと、世界観が根こそぎ変わったはずです。これがLoRAの力です!
4-3. LoRAの組み合わせで、表現の可能性は無限大に広がる
LoRAの本当のすごさは、複数組み合わせられることです。「キャラクターのLoRA」+「服装のLoRA」+「背景のLoRA」のようにスパイスを調合していけば、あなたの表現の可能性は、文字通り無限大に広がっていきます。あなただけのオリジナルレシピを、ぜひ探求してみてください。
第5章:あなたの作品を、世界に一つだけの宝物にするために
5-1.【総まとめ】モデルとLoRAを組み合わせ、オリジナルのキャラクターを創り出す
さあ、これまでの知識を総動員して、あなただけのオリジナルキャラクターを創り出す、卒業制作に挑戦しましょう!
- 【人格を決める】まず、ベースとなる「モデル」を選びます。今回は、あなたのお気に入りのアニメ風モデルを選んでみましょう。
- 【味付けをする】次に、キャラクターにどんな個性を与えたいか考え、「LoRA」を選びます。「魔法使いのローブ」のLoRA?それとも「スチームパンクなゴーグル」のLoRA?
- 【レシピを書く】キャラクターの見た目(髪の色、目の形など)や、ポーズ、表情を具体的に「プロンプト」に書き込みます。
- 【NGを伝える】最後に、おまじないとして、手が崩れたり品質が落ちたりしないように「ネガティブプロンプト」をしっかりと書き込みます。
さあ、生成ボタンを押してください。そこに現れたのは、他の誰でもない、あなたがこの世に生み出した、唯一無二のオリジナルキャラクターです!
5-2.【最重要】モデルやLoRAの「利用規約」と「ライセンス」の確認方法
あなたの素晴らしいキャラクターが、誰かを悲しませる道具になってしまわないように。クリエイターとして、最後に一番大切な「責任」について、お話しさせてください。
世界中のクリエイターが善意で共有してくれているモデルやLoRAですが、その一つ一つに、作者の想いが込められた「ルール(利用規約)」が存在します。これを無視することは、画材屋さんの商品を、代金を払わずに持ち去るのと同じです。
Civitaiで「魔法の許可証」を確認する方法
モデルやLoRAが配布されている「Civitai」などのサイトでは、各モデルのページ右側に、必ず以下のような「許可証」の情報が書かれています。ここを確認する癖を、必ずつけましょう。
- このモデルで画像を販売する許可: Yesなら商用利用OK、Noなら禁止です。
- このモデルをオンラインサービスで使用する許可: YesならSeaArtのようなWebサービスで使ってもOKです。
- このモデルを使ってマージする許可: 他のモデルと混ぜて、新しいモデルを作る許可です。
特に、あなたが作った画像を販売したり、収益の発生するブログで使ったりしたい場合、最初の「販売する許可」がYesになっているモデルやLoRAだけを使うように、固く心に誓ってください。これは、あなた自身と、素晴らしいモデルを創ってくれた作者の方々を守るための、何よりも大切なお約束です。
5-3. あなたの「好き」を貫くことが、最高の作品を生み出す
Stable Diffusionの世界は、あまりにも自由で、広大です。だからこそ、時に道に迷ってしまうこともあるかもしれません。そんな時は、いつでもこの講座に戻ってきてください。
そして、一番大切なことを、忘れないでください。最高の作品を生み出すための最後のスパイスは、他の誰でもない、あなた自身の「これが好き!」という強い気持ちです。技術は、その「好き」を形にするための、翼でしかありません。
あなたの「好き」が詰まった、素晴らしい作品が生まれる日を、心から楽しみにしています!
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